きっと、あの時は空が飛べたはず 僕は思い出に浸るのが好きだ。 ぼんやりと授業中に思い耽ることもあるし、帰り道を歩いている最中に耽ることもある。 …寂しい10代を過ごしているな、と思う人がいるかもしれない。 けれど、僕は、寂しいだなんて思わない。 だって、思い出に浸ることでしか、彼女とは“会えない”のだから。 彼女は、子どもの俺の力だと、会いに行けない、そんな遠い所に引っ越してしまった。 それに、彼女は僕の事を知らないのかもしれない。 廊下ですれ違ったり、時々彼女が職員室に入っていったり、 音楽室で、ピアノを弾いていたり、部活の練習で綺麗なソプラノの声音を響かせたり…… 彼女は、彼女の才能と努力を信じて、海外へ旅立っていった。 部活という小さなカテゴリーに収まりきらない、彼女の才能と努力と歌声は、僕を魅了し、僕の心をもぎ取っていった…… 彼女の居る方角はどっちだろう…… 僕は夕空を見上げながらふと思った。 いつの日か、彼女の才能が開花して、取り上げられるまで、 僕も、サッカーを頑張り続けようと…… 「ただいま、ホームズ……」 その時、咽あがるような、熱いものが身内にほとばしった。 僕は倒れこむように、しゃがみ込むと、 ホームズがクウンと首をかしげて、ペロリと僕の顔をなめた。 back 拍手お礼、水野ver |