ただ静かに足音は、私を置いていく……












小指に括る、青い糸

アフターイメージ










好きだ、という感情が人を動かすんじゃないのかな。
好きだから、相手のことが知りたい。
好きだから、相手に自分のことを知って欲しい。
知りたいから、知って欲しいから、話したり、話しかけたりする。


夏。私は、夏の夜明けが好きだ。特に雨が降る夜明けが。
晴れの日の、夜明けは私には眩しすぎて、雨が降っているぐらいが丁度いい。
冷房の音に掻き消された、雨音。窓越しに眺める、雨。
まだ人が目覚めるには早すぎる、夏の夜明け。


静かな、夏。


私は、浅い眠りを繰り返し、朦朧とする頭を上げて、カ−テンの隙間から零れるあまりに弱弱しい朝の陽を覗き込んだ。
時刻はまもなく朝の4時半を回ろうとしていた。


「雨……」


雨粒が、長い線を描いたように落ちていく。ほの暗い朝の景色に溶け込むかのように、うっすら透明で、ほんのり白い雨粒が、私の目前で、もっと遠くで数え切れないほど落ちていく。


あの日、彼は郭くんは泣いていたのかも知れない。けれど、私にはかける言葉も、提供するものも、何もなかった。――私には、持ち合わせていないんだ。ただのクラスメ−トだから……


郭くんの涙は、夜明けの雨のように、ただひっそりと音もなく、しとと、と流れているように見えた。けれど、本当はただ“他の音”に紛れて聴こえないだけで、慟哭をあげていたのかもしれないし、嗚咽を漏らしていたのかもしれない。…ただ、私は“クラスメ−ト”という殻に篭もって、耳をそっと塞いだ。それが彼のためだと思ったから。それしか私には出来ないから。


解ったことは、唯一つ。
私が、郭くんに何かを与えて上げられるポジションに居る訳ではない、という冷たい現実。


…まだ体が眠りを求めているようだ。目を瞑ればすぐに眠りの世界へといざなわれるだろう。そして、そこで見る夢は、悲しい物語に違いない。


あの日から幾度となく繰り返される、あの場面。
何が正しくて、何が間違っているのか……


私が理解できる領域を潔くつっき抜けた、あの考え。きっとそれは、郭くんだから。あの時、痛いほど感じた郭くんの優しさ。不器用なほど誠実で、悲しくなるまで伝えるべき言葉を失ってしまう、彼の愛情の形。


ああ。あの時も喧しいほど冷房の音が耳鳴りのように鼓膜をじりじりと突付いた。
そしてその“耳鳴り”が痛いほど教えてくれた。


『そこには、あなたは一ミリも存在しないのだよ』と。





「多分、これからも、ずっと好きだと思う…」





彼は静かに、言葉を紡ぐ。身じろぎも、戸惑いもない、本当の彼が。


そして、私はそっと耳を塞ぎ、目を瞑ろうと思った。
私と、郭くんが唯一繋がるものは、『大切な人を失った』ということだけ。
それ以上大きなことはなく、大切なことはない。





『さようなら』





あの、胸の潰れる感覚がまた、再び。





あの目の覚める青空の下、私たちが繋がるものは、小指につながれた『悲しいほど青い糸』だけだった。
















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短いです。話の転換期になってきました!とここで言わなきゃ解らない展開です。(死)男も女もそれぞれに問題はあるんです。