坂田銀時という男は不思議な人間だ。

普段の行動はまるっきしマダオでエロくて天パで、甲斐性って言葉が本当に似合わないのに、 誰よりも優しくて、万年貧乏なくせに懐が広くって。…でもやっぱりエロくて。

いつも鼻をほじくって、へらへらしているその背後に彼は何を背負ってきたのだろうか。それはこうやって気安く「銀ちゃん」と呼んではいけない気分にさせる「何か」を彼は持っているのだ。…それでも私はそれに気づかないふりをして「銀ちゃん」と親愛の気持ちを込めて呼ぶ。

そうじゃなきゃ彼は益々遠い人になってしまいそうで。そうしたらこうやって笑ったり泣いたり怒ったり、一緒にお菓子を食べたりする事が出来なくなってしまう。……そう考えると私の心はポッカリと穴が穿って、寂しさが体温を奪っていく。
だから私は気づかないふりをする。そうすれば彼に彼の温かくて大きな手で頭を撫でてもらえるのだから。
そして「はしゃあねぇなぁ」と笑うんだ。「甲斐性がなくてしょうがないのは銀ちゃんでしょ」私は可愛げなくそう返して、銀ちゃんはくつくつと笑いながら私の頭を撫ぜ回す。そうして暫くグシャグシャにした後、彼は優しい瞳で「には叶わない」と微笑うのだ。

その時私はキュウと譬えようの無い胸の締め付けを感じる。
「違うよ。叶わないのは銀ちゃんだよ」
喉元まで出かかった言葉は音になることなく、もやもやと胸の中に戻っていく。――この言葉を言ってしまったら彼が消えてしまいそうで。

私と彼との間柄に確かなものはなく、繋ぎとめるものは曖昧にただよう雲に似た友情。でもここで私が「友情」だと認めてしまったら、本当に彼とは遠い存在になってしまう。年齢も違ければ、思考も違う。勿論性別だって違う。同じな事といえば人間で、そして甘いものが好きだという事ぐらい。

バックグラウンドも立場も違う。

そんな彼に対する気持ちを友情だと括ってしまえば、私たちは真の意味で他人になってしまう。――私はそれが恐いんだ。






だって私は銀ちゃんが好きだから。





……ねぇ銀ちゃん気づいてよ。
ああ、でも、まだこのままで、

友情という言葉にもう少し縛られたい。









私は彼の前だと恋と言う発情期をむかえた雌ブタだ。









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M的思考。